森木製菓

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森木製菓

果たして社長になれるのか!?

学食パンナコッタ戦争

「あーお金が欲しい」

300円のラーメンの器をゴトン、とトレーの上に置きながら高橋は言った。

「自分の店手伝えばいいじゃん」

友人の浅野は言いなれた言葉を返す。



高橋の家は今流行りのパンケーキ屋だった。
しかし、圧倒的なアクセスの悪さと、メニューにそぐわない外見のせいで、1日に10人も客が来ればいい方であった。
店を手伝ったところで、高橋に給与を支払える余裕はない。



食器を返却する列に並んでいると、全く手をつけていないパンナコッタが2人の目にとまった。
その隣を、イマドキといった感じの女子大生が通り過ぎる。

「うわーもったいない! 私200円くらいで買ったのに」




この学食では、パンナコッタが人気だった。
しかし、パンナコッタを入手するためには1000円のオムライスを購入しなければならない。
ふわとろでもなんでもない、下手したら家でも作れるようなオムライスだったが、学生たちはパンナコッタのためにいつも店に列を作っていた。



「俺の実家、パンケーキが大量にあるんだけどさ」

高橋の言いたいことは、なんとなく浅野に伝わった。


"delicious"のエフェクトをつけて、パンケーキの画像をSNSに投稿することが当時の女子大生の間では流行っていた。
その画像と共に「○○とパンケーキなう!」と呟くだけで、女子としての価値を高められると同時に、沢山の男からの♡(いいね!)を受け取ることができたからだ。

これを見込んだ高橋は、実家の余ったパンケーキとパンナコッタを交換していくという手段に打って出た。
お昼休みからその次の3限の時間まで、オムライスを目の前にしている女子大生たちに、廃棄されるはずだったパンケーキを差し出していった。
最初は怪しまれたものの、ふわふわの生地と隣にちょこんとそえられた生クリームはやはり魅力的だし、なによりも画面映えする。


パンナコッタだけを200円で売り飛ばすビジネスは、すぐに終わった。
なぜなら"#高橋くんのパンケーキ"というハッシュタグができるほどに、大学中の女子大生はそれに夢中になっていたからだ。

あんなに人気のあったパンナコッタは今や"高橋くんのパンケーキを入手するためのパンナコッタ"となり、パンナコッタ自体の価値はほぼ無いも同然になってしまった。
それと同時に、一部の女子大生を筆頭に、パンケーキ派閥なるものが誕生し、そのグループに属していないものは相対的にパンナコッタ派閥と見なされた。

パンナコッタ派閥の人間、もとい特になにも意識してない学生たちからすると大学内の勝手な分裂は迷惑でしかなかったが、パンケーキ派閥の人々の行動は過激さを増していくばかりだった。

パンナコッタに対する好評を耳にするやいなや、パンケーキ派閥の女子大生たちは染められてしまえとばかりに、その人間に対して生クリームをかけるようになった。
そして、パンナコッタ派閥の人間は学食の隅でひっそりと昼食をすますようになった。

さらに、今年のミスコンのテーマは『パンケーキとわたし』。
内容はテーマそのまま、パンケーキと自分をうまく自撮りできればできるほど、票が得られるというシステムだ。
パンケーキが美味しそうに見えるならアプリは何を使っても可。
もちろん美しさや可愛らしさがなくたって、とにかく盛ることができればいい、誰にでもチャンスはあるといった感じだった。
それに肝心の"高橋くんのパンケーキ"は、出店3つ分の敷地を使って販売される予定だ。


学食内のオムライス屋も、とうとうパンナコッタをデザートとしてつけるのをやめ、高橋くんのパンケーキがその代わりとなった。
当然のことながら、これは高橋とその一家にとっては好都合でしかなかった。
高橋は物々交換をやめ、キッチンでひたすらパンケーキに生クリームをかける作業に励んだ。


しかし、高橋くんのパンケーキは別に美味しくはなかった。
オムライス同様、スーパーで買った袋の裏面通りにやればできるような、普通のパンケーキだった。
今となっては、それが量産されていくにつれ、さらに質が悪くなっていったのだ。

けれど、パンケーキ派閥の人間からしたらそんなことはどうでも良い。
いかに美味しそうに写真を撮れるか、♡(いいね!)をもらえるか、RTを稼げるか、それだけだったからだ。











「みなさん、今日はパンケーキを食べましたかー?」
生クリームをイメージしたというふわふわの真っ白い衣装を着て、司会の女子大生はパンケーキ派閥に問いかける。
「もちろーん!」の声の後ろの方で、真顔で突っ立っているパンナコッタ派閥の方を見ながら、
「まだの人は3号館の入口の側にある"高橋くんのパンケーキやさん"で買ってくださいねー♡」
と満面の笑みで言った。

「それでは今回のミスコン『パンケーキとわたし』の応援として駆けつけてくれた、新垣結衣さんでーす!」

黄色い声援のする方へ、笑顔で手を振りながら新垣結衣が登場する。

新垣結衣さんもやはりパンケーキはお好きですか?」

司会の女子大生は先ほどと変わらない笑みでマイクを向ける。

「はい! でも甘いものと言えば、この前ここの学食でオムライスを食べたんですけど、そのときに食べたパンナコッタ、最高でした!」













「あーお金が欲しい」

「パンケーキは人気だから大丈夫だって」






っていうのを学食の残されたパンナコッタを見るたびに思ってしまうよという、それだけの話でした。

以上!