今日はミカちゃんと一緒に帰れた。
実は、僕の家とミカちゃんの家は割と近所にある。
中1の初めの頃はよく一緒に帰ってたんだけど、今はミカちゃんと僕の放課後が合わなくなってしまったから、ほとんど別々なんだ。
でもだからこそ、久しぶりに帰り道を独り占めできて嬉しかった。
最初は、今日の授業で分からなかったこととか、学校の側に新しくできたセブンイレブンのこととか、そんな他愛もない話をした。
だけど、だんだんとやっぱりタクヤの話題になっていって、ミカちゃんは"ただの最近の仲良し"みたいな扱い方をしていたけど、僕には分かるんだ。
ミカちゃんの表情が生き生きすればするほど、僕の口角はうまく上がらなくなっていった。
「タクヤは凄い人」
それは僕だって知っている。
タクヤがいないと今のチームは回らないとか、誰よりも練習しているとか、彼に興味を示さないように生きていても分かることだ。
それから、この頃タクヤは読書を趣味にし始めたらしくて、特に考え方について勉強したいそうだから、ミカちゃんは僕にそういった類のオススメの本を聞いてきた。
(僕はできれば、僕の好きな本を聞いて欲しかったけど、でもミカちゃんに嫌な人だと思われたくないから)読みやすそうなのを2,3冊教えてあげた。
ミカちゃんが僕のことを"本を読むのが好きな人"と認知してくれているだけで嬉しかったけど、その後もまた話題にあがるタクヤと比べたら、なんだか自分がみみっちく思えた。
そして目の前の子が「タクヤってね、」「昨日のタクヤはね、」と口にするたびに、褒められない自分が嫌になった。
僕だって、映画部の副部長をやって、図書委員だってよく良いアイディアだって言ってもらえるのに、君は僕のそんな一面を知らないんだ。
君がキャーキャー言っていた、サッカー部のあの新入生歓迎ビデオを制作したのは僕だ。
君がよくチェックしている、普段の活動の様子を撮影しているのも僕。
廃部になりそうだったサッカー部の、部員募集ポスターの文面を考えたのも僕なんだよ。
僕が何にもしなきゃ、ミカちゃんは"タクヤの凄さ"なんて気が付かなかったかもしれないのに、こんなにも沢山の情報を提供してあげているのに、その僕のことなんてすっかり頭に無いようで。
家に着いてから、僕は好きだったミカちゃんに憎しみを抱いてしまって、それから彼女のことは嫌いになった方が良いのかもしれないと思った。
そもそも僕とミカちゃんは生きている世界が違う。
僕はスポーツに興味がないし、ミカちゃんは作品に興味がない。
そんなミカちゃんに認められようとあがいていたこと自体が、無意味だったのかもしれないともっと早く気が付くべきだった。
だから大好きなあの子をこれ以上嫌にならないために、もう好きになるのはやめようと思う。
無邪気に話しかけてくるその姿を、僕の中で綺麗なままにしておきたいんだ。