ジムにまた新しい男性のトレーナーさんがいらっしゃった。
以前の私だったら、また新しく妄想物語を作っては心の中で勝手に興奮していたと思うのだが、マッチョになることを本気で夢見始めた今はそういう邪心はなくなっていた。
今日は胸のトレーニングの日で、ベンチプレスという種目をやった。
インクラインベンチに倒れるときに「頭ぶつけないでくださいね」と注意されたにも関わらず、私はバーベルに思いっきり頭をぶつけた。
トレーナーさんが違うと器具のポジションもやはり変わってしまうのに、いつもの感覚で倒れたからだ。
別に全然大丈夫だったのだけれど、そのトレーナーさんが「わー痛かったですね」と言いながら、ぶつけた箇所を触って心配して下さった。
異性に頭を触れらるのなんて5億光年ぶりだった。
一瞬私の中の女が出てきそうになったが、近くに尊敬するマッチョのトレーナーさんいたから、その程度かと思われるのが嫌で殴り押し込めた。
そういえば、そのトレーナーさんがトレーニング中にGenerationsばっかり流していて、それが頭から離れなくなってしまった。
あまりにも離れないので最近聴いているのだが、銀杏BOYZで育ってきたために何を言っているのかがさっぱり分からない。
さっぱり分からないのだけれど、中途半端に再生されるのも嫌だし、何より尊敬している人が聴いている音楽なので知っておきたいのである。
新卒で入ったブラック企業代表みたいな会社で、営業成績優秀者を称える表彰式が毎月あったのだが、そのときにこんなことを言っている人がいた。
「できる人のマネをすること! 食べているもの、着ている服、聴いている音楽…全部一緒にすれば思考も一緒になっていく!」
何言ってんだと思ったが、当時意外と業績の良かった私もそういえば同じようなことをしていた。
私がその会社で尊敬していた人は、同じく銀杏BOYZが好きだった。
LINEのプロフィールで設定できる音楽を銀杏にしていたことに気付いたその人が、飲み会のときに話しかけてくれたのが最初だった。(ちなみに日本発狂にしてた)
入社して2か月後くらいに部署で席が隣になって、やっぱりめちゃくちゃ喋ったし、勧めていただいたピーズやフラカンなど全部聴いた。
そしたら最初は月10万もいかなかった売り上げが、気が付けば100万円以上になっていた。
別に服や食べ物は同じにしなかったが、私もやはり営業成績が良くなったのだ。
たしかに「全部マネればいい」と言うとそれっぽいが、要はストーカーになりなさいということなんだと思う。
私は尊敬する人ができると何もかもを取り入れたくなるので、そうやって好きなものを聞き出したし、その人のお客さんとの通話を聞きまくってメモしたりしていた。
つまり、私のストーカー癖がたまたま良い方向に働いただけだった。
そしていま私が尊敬しているのはマッチョだ。
営業には性別は特に関係なかったが、ボディをビルディングすることは、すなわち体に関することなので、男女の違いがかなり影響してきてしまうだろう。
あの営業時代の感じでそのトレーナーさんに同じように執着したら、数年後の私は一体どんな風になってしまうのだろうか。